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はじめに。電車は多くの人が利用する公共交通機関ですが、そこで掲載される電車広告は乗客にとって身近な広告媒体です。特に利用者が多い大都市圏では、リーチ力や反復訴求効果といった高い広告効果が見込ます。

しかし、電車内はさまざまな情報で溢れ、乗客は移動中にも多くの視覚情報に晒されています。そのため、ターゲットの興味・関心を惹きつけ、その広告が目的とする「行動変容」を促すまでに影響を与えることは容易ではありません。

そこにはコンセプトを土台にしたクリエイティビティ、メッセージングなどの「デザイン戦略」が重要になります。企業のご担当者さまのご参考として、電車広告をする際のデザイン戦略について解説していきます。

電車広告の広告媒体としての課題と、そのデザイン上の対応策

電車広告とは、電車の車両内や車体に掲出する広告の総称で、多くの乗客にリーチでき、認知向上や購買意欲の喚起に効果的な手段として効果がある広告媒体です。また、ターゲット層を絞り込むことで戦略的に広告展開しやすいというメリットもあります。

ここでは、電車広告の広告媒体としての課題と、そのデザイン対応策を考えてみたいと思います。代表的な課題として、以下の2つが挙げられます。

課題①

【情報過多】自社広告を電車内の情報氾濫の海に沈ませない

電車内では、広告・ニュース・天気予報・車内アナウンス・案内表示・路線図・自身のスマホからの情報など、さまざまな情報を乗客は視覚、聴覚を通じて受け取ります。そうした情報氾濫の電車内で、自社広告が他社の広告や、そのほかの視覚情報に埋もれないためには、それらとの差別化が重要です。そのためには、自社広告の視認性や訴求力をより高める必要があります。

対応策① 

広告の表現手法を変えてみる

以下のようなデザイン手法は、他社の広告や、ほかの視覚情報との差別化を図るうえで効果的です。

〈立体的なデザイン〉

電車内では平面的な広告が主流なため、立体的なデザインは視認性が高く、注目を集めることができます。例えば、浮き出るような立体感を演出したり、ペーパークラフトのような立体的な造形を取り入れたりするなどの手法も効果があります。

〈目線を意識したデザイン〉

電車車内の天井から吊り下げられた「中吊り広告」を、多くの乗客は下から見上げます。中吊り広告と見る人の距離が遠くなると、後ろの中吊り広告は前の中吊り広告と重なり、広告の上部が隠れて見えづらくなります。そのため商品ロゴやキャッチコピーなどの重要な要素の位置を、レイアウトの下部に配置し、下からの目線を意識したレイアウトにすることで、強調したい部分の視認性を高める効果が期待できます。

〈しっかり読んでもらうデザイン〉

キャッチコピーや、コンテンツをじっくり読んで考えてもらうには、コピー中心のデザインが効果的です。ターゲットに刺さるテーマとそのコンテンツが重要ですが、シリーズ化することで、継続的に興味や関心を持ってもらうことができ、ターゲットの商品やサービスの理解度を次第に深める効果が期待できます。

課題②

限られた広告スペース。

電車広告は、車両内外の限られたスペースに掲出されます。電車ジャヤック(トレインジャック)は別とし、小スペース単体の場合は、広告を掲載するスペースの制約がありますが、それを有効活用し、情報を効果的に伝え、目が離せないと思ってもらえるような表現手法にすることが望まれます。

対応策②

でも目が離せない!

広告スペースの制約を活かした効果的な表現手法は、細かくは多岐にわたりますが、重要なポイントは以下の3つです。

②-1〈シンプルなデザイン〉

例えば、電車の中吊り広告のシングルサイズはB3ヨコ(横515mm×縦364mm)です。この限られたスペースの中に、すべての情報を盛り込むことは、かえってメッセージが伝わりづらくなります。言いたいことをぐっと絞り、それをシンプルなデザインで分かりやすく表現し、伝えたいメッセージがターゲットに直感的に伝わるようにします。

そのデザインの手法として、ホワイトスペース(余白)の利用があります。ホワイトスペースは、それぞれの要素のバランスや、情報を整理することで、文字を読みやすくし情報の伝達性や可読性を高めるなどの働きもあります。内容がひと目で理解できるようになり、伝えたいメッセージの訴求力を高めることができます。

②-2〈視覚的にインパクトのあるデザイン〉

限られたスペースの中で注目を集めるためには、視覚的にインパクトのあるデザインも効果的です。商品・サービスのロゴや画像、キャッチコピーといった重要な情報を目立つようにレイアウトすることで、メッセージが伝わりやすくなります。

例えば、キャッチコピーのフォントサイズを大きくし、イメージを構成する色彩やイラスト、画像などの配置・サイズ・バランスを調整し、見せたいものを強調的に演出する。また鮮やかな色彩や色調、大胆なレイアウトを採用することで、ターゲットの視線を奪う視覚的なインパクトを与えることができます。ただし、キャッチコピーはターゲットに刺さる効果的なものでなければなりません。

②-3〈言いたいことや情報を絞り込む〉

限られたスペースの中に伝えたいことのすべて盛り込むと、かえってデザインも散漫になり、広告の受け手は「何を言いたいのか分からない」と受け取って、すぐに忘れさられて記憶に残りません。

前述した「視覚的にインパクトのあるデザイン」をシンプルにするためには、本当に伝えたいメッセージだけに絞り込む方が、ターゲットに伝わりやすくなります。また、キャッチコピーも、ターゲットのニーズに沿った効果的なキーワードを使い、要点を簡潔に表し、全体的にコンパクトな文章にする方が、ターゲットにより伝わりやすくなります。

コンセプトメイキングとクリエイティビティの重要性

前出した広告媒体の課題についての対応策は、ターゲットに見てもらうためのデザイン上の視覚的な手段です。つまり、どのように表現するか(どう魅せるか)、例えばカッコよくお洒落に、また豪華で煌びやかに、キュートで可愛く、などと感じてもらいた際に、アウトプットするデザイン上の視覚的手法(レイアウト・フォント・色彩・画像などを使って行うテクニック)です。

デザイナーは基本的な制作手順として、目に見えるカタチで表現する前に、まずはその土台となる考え方を決めます。それを「世界観」(方向性・トーン&マナー)といいます。その世界観を最終的に目に見えるカタチにするために、アウトプットするデザイン上の視覚的手法を決定します。つまり、世界観を具現化したものが、デザイン上の視覚的手法です。

この世界観は、独創的なアイデアを生み出す「クリエイティビティ」(クリエイティブ)によって形成されます。更に、そのクリエイティビティの基は「コンセプト」です。つまり、コンセプトを実体化したのが世界観とも言えます。

コンセプトは、「誰」(ターゲット)に、「何を伝えるのか」、それを「どのように伝えるのか」を基本に、「このデザインで達成すべきゴールは何なのか」を明確にする指針になります。いわばクリエイティブやデザインするうえでの核です。そのコンセプトを創造するプロセスを「コンセプトメイキング」と呼びます。

コンセプトメイキングは、商品やサービスの特徴、競合他社、市場、ターゲット(ペルソナ)属性、ターゲットのニーズ、便益、企業の課題、プロジェクトや広告の目的など、さまざまな情報の与件整理を下地に、ターゲット(顧客)目線・企業(広告主)目線などを鑑み、何をテーマに、どのように伝え、ターゲットにどうなってもらいたいのかなどと、明確なコンセプトへと組み立てていきます。

しっかりしたコンセプトと、そのコンセプトから、アイデアを生むクリエイティビティは、デザインには重要不可欠なものです。

電車広告の効果を高めるデザインの構成要素は何か

コンセプトメイキングやクリエイティビティが重要なことを踏まえて、電車広告にデザインの構成上、押さえておくべき要素はどのようなものがあるかを挙げます。

〈柔軟性と独創性〉

デザインの柔軟性(フレキシブル)と独創性(オリジナリティ)は密接に関係し、互いに補完し合う重要な概念です。それぞれ単独で存在するものではなく、両方のバランスをいかに取るかによって、デザインの質と効果が大きく影響します。これは電車広告だけに限りませんが、ターゲットを惹きつけるためには柔軟で独創的なデザインが求められます。変化に対応できる柔軟性を持ちながら、オリジナリティがあり、新鮮な印象を与えるようなデザインを目指すことも必要な要素です。

例えば、ターゲットの想像力を刺激するデザインは、独創性柔軟性の両方の要素に当てはまります。独創的なアイデアによって、ターゲットの想像力を刺激し、記憶に残りやすい印象を与えることができます。また、柔軟な発想によって、ターゲットや場所、時間帯、クリスマスなどのイベント、癒されたいときの感情などの状況に合わせてさまざまなデザインを展開することができます。

〈ターゲットへの訴求力〉

電車広告は商品・サービスによっては、年齢層が広く多様なターゲット層にアプローチする必要があります。そのため、ターゲット層のニーズや価値観に応えるデザインが必要です。例えば、ターゲット層のライフスタイルや興味を反映したデザインは、効果的な訴求ができ、共感を呼ぶデザインはより印象に残りやすくなります。

〈効果的なメッセージ〉

通勤・通学など、電車内での滞在時間が一定時間あるため、中吊り広告などキャッチコピーや文章がメッセージを伝える手段として機能します。ターゲットの共感を得られるようなキャッチコピーや文章にすることで、ターゲットの想像力を刺激し、より効果的に訴求力できます。

そのために大切なのは、ユーザーのニーズや課題を正しく理解し、そこから発見したインサイトに沿うキーワードを上手く活用し、発信したいことを簡潔に表現することにより、メッセージが伝わりやすくなります。

〈ストーリーテリングの重要性〉

電車広告は、ターゲットへの訴求力を高めるために、ターゲットのニーズに応え、感情に訴えるようなメッセージのアプローチもあります。例えば、ターゲットの悩みや不安を解決するようなメッセージや、ターゲットの憧れや夢を叶えるようなメッセージ、ターゲットの価値観やライフスタイルに共感するようなメッセージなどは、効果的に訴求することができます。

また、電車の滞在時間が短いターゲットの場合もあります。その際にもターゲットに効果的に訴求する必要があります。そこで「ストーリーテリング」を取り入れる方法もあります。ストーリーテリングとは、相手に、伝えたい思いやコンセプトなどを認識および想起してもらうために、相手の心に響かせ、共感を得て、行動を促すことを目的に、印象的な体験談、物語、事例などの形式でコミュニケーションする手法です。これにより、人の感情や共感を呼び起こすことで、興味を持たせ、記憶に残りやすくすることができます。

ストーリーテリング作成のポイント

・ターゲットを明確にし、ターゲットに響くようなストーリーを展開。

・簡潔で分かりやすいストーリー。

・視覚的な要素も活用し、訴求効果を高める。

共感を呼ぶストーリー

ターゲットの共感を呼ぶようなストーリーを展開することで、商品やサービスへの理解と関心を高めることができます。

例)人材紹介サービス

職場関係に悩む人の葛藤や、キャリアアップへの希望を抱えるターゲットに、人材紹介サービスのサポートによって、希望の転職ができた喜びを描写することで、ターゲットの共感を誘い、人材紹介への関心を高めることができます。

ユーモアのあるストーリー

ユーモアのあるストーリーを展開することで、ターゲットの興味を引き、商品やサービスを印象的に伝えることができます。

例)パーソナルダイエットジム

ダイエットにまつわるユーモラスなエピソードを描き、ダイエットジムのサポートを分かりやすく伝えるストーリーを展開することで、ターゲットの興味を引き、ダイエットへの関心を高めることができます。

問題解決型ストーリー

ターゲットが抱えている問題を解決するようなストーリーを展開することで、商品やサービスの価値を訴求することができます。

例)英会話

そもそも英語が苦手な生徒が英会話に通い、最後には英会話が上達するストーリーを展開することで、ターゲットの共感を呼び、英会話への関心を高めることができます。

〈メッセージの最適化〉

メッセージとは、「相手に伝えたいことを言葉や態度で示すこと」です。それはコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。電車広告でも効果的なメッセージをすることで、ターゲットの行動変容を促すため、メッセージの最適化は重要です。具体的には、以下のような点を考慮する必要があります。

 短くても伝わるメッセージ

乗客が移動中にじっくりと電車広告を読むには、時間がない人もいます。そのため、短くても伝わるメッセージが求められます。以下のメッセージは、短くても伝わりやすいメッセージの例です。

〈キャッチフレーズ〉

「お風呂上がりの、すっきり感。」

「世界を、もっとカラフルに。」*1

「あなたの、新しい毎日に。」

*1 株式会社 ミライLABのミッション http://www.mirai-labo8.com/about

〈キャッチフレーズの要素〉

キャッチフレーズは、短い言葉でインパクトを与えるために以下の要素を意識することが重要です。

・簡便性

冗長なものではなく、簡潔で分かりやすいものが求められます。ターゲットがすぐに理解し、記憶できるようなフレーズを心がけることが必要です。

・独創的

競合他社のものと区別できるような独創的であるべきです。ターゲットの印象に残るような、オリジナリティのあるフレーズが必要です。

・訴求力

ターゲットの興味を引いたり、共感を呼んだりするような訴求力があるべきです。商品やサービスのメリットを分かりやすく伝え、ターゲットが行動を起したくなるようなフレーズが求められます。

・記憶に残る

ターゲットの記憶に残るようなものであるべきです。韻を踏んだり、言葉遊びを取り入れたり、インパクトのある表現を使うなど記憶に残るフレーズを作ることを心がけることが必要です。

・ターゲットへの理解

ターゲットの年齢、性別、価値観、インサイトなどを理解し、作る必要があります。ターゲットに響くような言葉や表現を使う必要が重要です。

〈印象の深化〉

印象の深化とは、特定の出来事や人物について新しい情報を得たり、深く考えたりするなど、対象に関する印象が強くなることを言います。これらは学習や経験を通じて感情や知識の増加することで起こるとされています。

電車広告が、乗客の記憶に残るためには印象を深める工夫が必要です。そのため、同じ広告を頻繁に見る機会や、瞬時に目を惹くインパクト、一定の時間その広告に触れている体験、特定のアプローチなどの電車広告での特性を活用し、印象を深めることが重要です。

印象の深化には、以下の方法が挙げられます。

複数回接触

・同じ広告に複数回接触することで、記憶に残りやすくなり効果を高めることができます。

・複数の広告を組み合わせることで、より効果的に訴求することができます。

ターゲット層の行動変容を促す

電車広告は、ターゲット層の行動変容を促すためのメッセージを設計することが重要です。そのためには、広告を見てターゲットが行動を起こすための「印象を深める」ことが必要です。例えば、前述のストーリーテリングや、クーポン、キャンペーンなどを実施することで、ターゲットに行動を促し、印象を深めることができます。

まとめ

電車広告の働きは、「認知度向上」「購買意欲の喚起・促進」「ブランドイメージの構築」「販促活動の支援」「新規顧客の獲得」などがあります。

電車広告のメリットとしては以下のようなものがあります。

・リーチ数が多くの人々に商品やサービスを訴求できる

・ターゲット絞り込むことでターゲティング性が高くなる

・電車内など限られた空間に設置されるため、視認性が高い

・繰り返し露出されるため、記憶に残る可能性が高い

・他の広告媒体より費用対効果が高い

また、「電車広告の効果を高めるデザインの構成要素は何か」ということで、以下のことを解説しました。

・柔軟性と独創性

・ターゲットへの訴求力

・効果的なメッセージ

・ストーリーテリングの重要性

・メッセージの最適化

・印象の深化

これらのデザインの構成要素を生み出すものが「コンセプト」と「クリエイティビティ」です。デザイン制作で最も必要不可欠なものです。この「コンセプト」と「クリエイティビティ」と言う基盤をしっかりと固めることで、電車広告の効果を最大限に発揮することができます。

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